来月、新人が1人入る。最初の3か月で何を教えるかを、そろそろ決めておかなければならない。保険代理店の経営者や営業所長にとって、よくある場面です。
商品知識や社内システムの使い方は、教える内容がはっきりしています。所属保険会社の研修もあります。一方で、誰に会い、どう会い、会って何を話すかという顧客獲得の部分は、中身が決まらないまま現場に任されることがあります。
この記事では、新人教育プログラムを4つの要素に分け、入社90日を30日ごとの3段階で組み立てる方法を解説します。あわせて、プログラムを回す週1回の振り返りと、紙1枚の初版を作る手順も紹介します。いずれも自店に当てはめられる形でお伝えします。
新人教育プログラムは4つの要素でできている
新人教育プログラムというと、分厚いカリキュラムを想像しがちです。しかし中身を分解すると、必要な要素は4つに整理できます。
| 要素 | 決めること | 欠けると起きること |
|---|---|---|
| 順番 | 何を、どの時期に教えるか | 教える内容が、その日の上長の都合で決まる |
| 到達点 | 何ができたら次に進むか | 育っているかどうかが、契約が挙がるまで分からない |
| 担当 | 誰が教え、誰が確認するか | 教える人によって言うことが変わる |
| 記録 | どこまで進み、どこで止まったか | 次の新人にも同じ説明を最初からすることになる |
4つのうち、最初から全部を細かく作る必要はありません。まずは紙1枚に、この4つの欄があれば十分です。
新人教育プログラムとは、「順番・到達点・担当・記録」の4つを1枚に書いたものです。量より、4つがそろっていることが大切です。
プログラムを作る前に決める3つのこと
いきなり日ごとの予定表を作り始めると、手が止まります。先に次の3つを決めておくと、中身が組みやすくなります。
90日目の姿を「行動」で書く
最初に決めるのは、90日目に新人がどんな状態になっていてほしいかです。
ここで「契約を〇件」と置くと、途中の進み具合が見えなくなります。契約はお客様の事情にも左右されるため、新人の育ち具合だけでは決まらないからです。
そこで、外から見える行動で書きます。たとえば「同行なしで初回面談を最後まで進められる」「断られた面談の振り返りを自分で書いて持ってこられる」といった形です。行動で書いておけば、契約が挙がる前でも進み具合を確かめられます。
教える中身を「知識」と「顧客獲得」に分けて書き出す
次に、90日で教えたいことをすべて書き出し、2つに分けます。
1つ目は知識です。商品の仕組み、事務手続き、コンプライアンス(法令や社内規則を守って業務を行うこと)がここに入ります。この部分は、所属保険会社の研修や社内規則など、すでにある教材を土台にできます。
保険業法第294条の3と同法施行規則第227条の7は、保険代理店などの保険募集人に、社内規則等を定めるよう求めています。あわせて、従業員への研修などを通じて、規則に沿って業務が運営される体制を整えることも求めています。
2つ目は顧客獲得です。誰に会うのか、どうやって会うのか、会って最初に何を話すのか。こちらは書き出してみると、空欄が多く残ることがあります。
新人教育プログラムを自店で作る意味は、この空欄を埋めることにあります。知識の研修を終えてから顧客獲得を教えるのではなく、1日目から両方を並べて進めるのが基本です。
「教える人」と「確認する人」を分ける
3つ目は担当です。新人の面倒を、成績のよい人に任せることがよくあります。自然な人選ですが、その人に全部を任せると、自分の商談との板挟みになります。
そこで、役割を2つに分けます。中身を伝える「教える人」と、できているかを見る「確認する人」です。教える部分は資料や録画した説明に置き換えられます。売れる人には、同行と確認に絞って関わってもらう形にすると、負担が現実的な量に収まります。
入社90日の新人教育プログラム|30日ごとの3段階
ここからは、90日を3つの段階に分けた例を示します。各段階の終わりに「次へ進む目安」を置いているのがポイントです。
| 期間 | テーマ | 主な中身 | 次へ進む目安(行動) |
|---|---|---|---|
| 1〜30日目 | 土台をつくる | 知識の研修、顧客獲得の全体像、見込み客リスト、自己紹介の練習 | 見込み客リストを自分の言葉で書き出し、自己紹介を上長の前で言える |
| 31〜60日目 | 型を身につける | 見るものを決めた同行、初回面談の型、アポイントの電話の練習 | 初回面談の流れを、ロールプレイで最後まで進められる |
| 61〜90日目 | 一人で回す | 単独の初回面談、自分で書く振り返り、止まった場所の修正 | 単独で初回面談を行い、振り返りを自分で持ってこられる |
1〜30日目|土台をつくる
最初の30日は、知識の研修が中心になります。資格の取得と、募集人の登録(損害保険の代理店の従業員は届出)は、所属保険会社の案内に沿って進めてください。お客様との面談は、これらの手続きが済んでから始めます。
ただし、知識だけで30日を埋めないことが大切です。同じ期間に、顧客獲得の全体像を1枚の図で見せておきます。「どんな人に」「どんな経路で出会い」「最初に何を話すか」の3点です。全体像が先にあると、あとで学ぶ知識がどこで使われるのかを新人がつかみやすくなります。
この段階で取り組むのは、次のような準備です。
- 見込み客(今後お会いする可能性のある方)の候補を、自分の言葉で書き出す
- 30秒の自己紹介を作り、上長の前で練習する
- ロールプレイ(お客様役と営業役に分かれて行う商談の練習)を、まず見る側として体験する
30日目の到達点の例です。
- 見込み客の候補を20件、自分の言葉で書き出した
- 30秒の自己紹介を、上長の前で止まらずに言えた
- ロールプレイでお客様役を2回以上担当した
- 社内の事務手続きを、手順書を見ながら一人で進められた
31〜60日目|見るものを決めた同行と、型の練習
2か月目は、先輩の商談への同行とロールプレイが中心です。同行は、登録(届出)の手続きが済んでから、所属先の案内に沿って始めます。
同行は、何を見るかを決めて行うと教育になります。売れる人の商談は情報量が多く、初めて見る人には要素を分けて受け取れません。そこで1回の同行につき、見るものを1つに絞ります。
上長が同行の前に新人へ伝える一言
「今日の同行で見てほしいのは、最初の5分だけです。私がどんな順番で話を始めるか、メモしておいてください。帰り道で、何が見えたか教えてもらえますか。」
同行のあとには、何が見えたかを新人の口から話してもらいます。見るものを1つにして、言葉にするところまでを1組にするのがコツです。
並行して、初回面談の型をロールプレイで練習します。型とは、あいさつ、面談の目的の確認、お客様のお話を伺う、次回の約束、という流れのことです。流れを覚えるまでは、上長がお客様役を務めます。
60日目の到達点の例です。
- テーマを決めた同行を4回以上行い、それぞれ見えたことを話せた
- 初回面談の流れを、ロールプレイで最後まで進められた
- アポイントの電話の最初の一言を、上長の前で言えた
- 同行先の商談で、次回の約束の取り方を説明できた
61〜90日目|一人で回し、自分で振り返る
3か月目は、登録(届出)を終えた新人が、一人で初回面談を行う段階です。ここで大切なのは、面談の結果よりも、終わったあとの振り返りです。
断られた面談ほど、学べることが多くあります。話がどこで止まったか。お客様の表情が変わったのはどの場面か。新人がこれを自分で書いて持ってくれば、上長は手を入れる点だけを見れば済みます。
90日目の到達点の例です。
- 単独で初回面談を行い、最後まで進められた
- 面談の振り返りを、指示される前に自分で書いて持ってきた
- 自分が止まりやすい場面を1つ挙げ、次の工夫を言えた
ここで挙げた期間や件数は、書き方の一例です。新人の経験や代理店の業務によって、適した区切りは変わります。30日ごとに到達点を確かめられる形になっていれば、数字は自店で決めて構いません。
週1回15分の振り返りで、プログラムを回す
プログラムは作って終わりではありません。回すための仕組みとして、週に1回、15分の振り返りの時間をとります。長い面談は続きません。短く、決まった形で行うことが大切です。
- 先週決めた行動が、できたかどうかを確認する
- 手が止まった場面を1つだけ挙げてもらう
- その場面の次の一手を、新人自身に決めてもらう
- 決めた内容を記録に残し、来週の確認につなげる
振り返りで上長がかける問い
「今週いちばん手が止まったのは、どの場面でしたか。そこで次に何を変えてみますか。」
ポイントは、答えを上長が先に言わないことです。次の一手を新人が自分で決めると、翌週の行動に移りやすくなります。指示されて動くのと、自分で決めて動くのとでは、持ち帰るものが変わるからです。
記録は、次の5つの欄がある表で十分です。
- 日付
- 今週の到達点(できた/まだ)
- 手が止まった場面
- 次の一手(新人が決めたこと)
- 確認した人
この記録は、新人を評価するためのものではありません。次に入ってくる新人のためのものです。どこでつまずきやすいかが分かれば、その手前に説明を足せます。教育の実施を記録に残す考え方は、「保険代理店の教育責任者は何をする人か」で詳しく扱っています。
プログラムづくりでつまずきやすい3つの場面
初めてプログラムを作るときは、似たところでつまずきやすくなります。事前に知っておくと避けやすくなります。
知識の講義で最初の1か月が埋まる
教える内容がはっきりしている知識の研修は、予定に組み込みやすいものです。その結果、最初の1か月が講義だけで埋まり、顧客獲得に触れないまま2か月目を迎えることがあります。
見込み客リストや自己紹介の練習など、知識と並べて進められるものを1日目から入れると、この偏りを防ぎやすくなります。
到達点を契約件数だけで置く
到達点が契約件数だけだと、契約が挙がるまでの数か月、新人にも上長にも進み具合が見えません。本人にとっても、やっていることが正しいのか手応えがない期間になります。
契約件数は結果として追いつつ、到達点は行動で置く。この2つを分けておくことで、途中で褒めることも直すこともできるようになります。
作った人しか中身を知らない
プログラムを作った人の頭の中にだけ中身があると、その人が忙しくなった途端に止まります。担当が変わると、内容も変わってしまいます。
プログラムは、教える人が変わっても同じ順番で進むように、紙や共有フォルダに置いておきます。新人が育たない原因は、「保険営業の新人が育たない5つの理由」で育てる側の設計から整理しています。あわせて読むと、どこから整えるべきかが見えやすくなります。
最初の1週間でつくる、紙1枚の初版
ここまでの内容を、最初から完成させる必要はありません。1週間で紙1枚の初版を作り、次の新人で一度回して直す。この順番で進めると、着手しやすくなります。
- 90日目にできていてほしい行動を、5つ書き出す
- その5つを、30日・60日・90日の3段階に割り振る
- 各段階で教える中身を、「知識」と「顧客獲得」の2列で書く
- それぞれに、教える人と確認する人の名前を入れる
- 週1回の振り返りで使う、5つの欄の記録表を用意する
5つ目まで書けたら、それが初版です。次の新人と一緒に回してみると、足りない部分や順番の入れ替えが見つかります。見つかったところを直していけば、代理店としての教育プログラムが少しずつ形になっていきます。
作ってみて手が止まりやすいのは、顧客獲得の列です。誰に会い、どう出会い、何を話すか。この中身が固まると、プログラムの2列目が埋まります。minalでは、顧客獲得の型を学ぶ講座を開いています。開催予定は、この記事の下でご案内しています。
まとめ|90日の順番と到達点を、紙1枚に書くことから
新人教育プログラムは、順番・到達点・担当・記録の4つでできています。作る前に、90日目の姿を行動で書き、教える中身を知識と顧客獲得に分け、教える人と確認する人を分けておきます。
90日は30日ごとの3段階で組み立てます。土台をつくる、見るものを決めた同行と型の練習、一人で回して自分で振り返る。各段階の終わりに、行動で書いた到達点を置きます。そして週1回15分の振り返りで、新人が自分で次の一手を決める形にして回します。
最初から完成版を作る必要はありません。90日目にできていてほしい行動を5つ書き出すところから始めてください。そこが、自店の教育プログラムの1行目になります。
minalについて
minal(ミナル)は、保険・不動産・金融など、お金を扱う仕事に特化した法人向けの教育研修サービスです。「売り上げに繋がる学び」をコンセプトに、個人事業主・経営者の方や、人事・研修担当の方の社員教育・人材育成を支えています。
お金を扱う仕事は、商品の知識だけでは成り立ちません。どうやってお客様と出会い、関係を築き、提案につなげるか。minalが扱うのは、知識系の研修では学びにくい、この実務の部分です。
現場で顧客獲得に取り組んできた方に登壇いただき、そのやり方を、ほかの方が再現できる形の研修にしています。「あの人だからできる」で終わらせないことが、私たちのテーマです。
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※本記事は営業・育成ノウハウの解説であり、特定の保険商品の推奨・比較や個別の保険勧誘を目的とするものではありません。保険業法など制度の取り扱いは変動する場合があるため、実施の可否や条件は所属先・公式の案内で確認してください。
