教育管理規定をひな形から整え、社内の承認も済んだ。ところが、その後に何を回せばいいのかが決まっていない。保険代理店では、こうした状態がよく見られます。
規程は、それ自体がゴールではありません。教育を回すための設計図です。設計図があっても、工程表と点検の予定がなければ、建物は建ちません。
この記事では、規程を作った後にやることを5つのステップに整理します。条文を運用表に分解するところから、年1回の見直しまで。経営者や教育責任者、内部管理の担当者が、手元の規程を開きながら進められる形にまとめました。
教育管理規定は「作った後」に中身が問われる
まず、制度の前提を短く確認します。保険業法第294条の3と同法施行規則第227条の7は、保険募集人に社内規則等を定めることに加えて、「従業員に対する研修その他の当該社内規則等に基づいて業務が運営されるための十分な体制」の整備を求めています。金融庁の「保険会社向けの総合的な監督指針」(II-4-2-9)も、規程に定めたうえで「適切な教育・管理・指導を行っているか」、監査等で実態を把握しているかを着眼点にしています。
つまり、規程を作ることと、規程どおりに業務が回る体制をつくることは、1セットです。求められる体制の範囲は代理店の規模や形態によって異なるため、規程に何を記載するかは、所属する保険会社の指定やガイドラインに沿って整えてください。
本記事の制度の記述は、次の一次情報で2026年9月27日に確認した内容です。保険業法(e-Gov法令検索)/保険業法施行規則(e-Gov法令検索)/保険会社向けの総合的な監督指針 II-4(金融庁)。改正される場合があるため、最新の内容は金融庁の公表資料やe-Govで確認してください。
規程が「作っただけ」で止まる3つの理由
規程が運用に乗らないとき、よく見られる理由は次の3つです。どれも担当者の熱意の問題ではなく、設計の問題です。
1. 条文が行動の単位になっていない
規程には「適切に教育を行う」「必要に応じて指導する」といった言葉が並びます。文書としては正しい書き方です。
しかし、この言葉のままでは、誰が、いつ、何をするのかが決まりません。決まっていないことは、忙しい月から順に後回しになります。
2. 自店としての到達点が決まっていない
保険会社が用意する研修を受けさせること自体が、目的になりがちです。受講は済んでいても、募集人が何をできるようになったのかは確かめていない。こうなると、教育をしていても、現場の行動は変わりません。
3. 実施後の確認と見直しの予定が入っていない
規程を作った時点で、次に開く日が決まっていないケースです。組織や取扱商品が変わっても規程はそのままになり、少しずつ実態とずれていきます。
この3つに順に手を打つのが、次の5ステップです。
規程を回すための教育設計5ステップ
全体の流れは次のとおりです。
- 規程の条文を「運用表」に分解する
- 対象者ごとに「到達点」を決める
- 教え方と「理解の確かめ方」をセットで決める
- 四半期ごとに「規程と実態のずれ」を点検する
- 年1回、規程そのものを見直す
ステップ1|規程の条文を「運用表」に分解する
最初にやるのは、規程を1条ずつ読み、行動に置き換えることです。規程は書き換えません。規程の横に、運用のための表をもう1枚つくります。
列は5つで足ります。
| 規程の記載(例) | 担当 | 時期 | 方法 | 残す記録 |
|---|---|---|---|---|
| 新たに募集に従事する者に、募集開始前の教育を行う | 教育責任者 | 入社後、募集開始まで | 集合研修+同行 | 受講日・確認テストの結果 |
| 募集人に定期的な教育を行う | 教育責任者 | 毎月1回 | 朝礼での事例共有、eラーニング | 実施日・参加者・テーマ |
| 顧客情報の取扱いについて教育する | 内部管理担当 | 年2回 | 事例を使った集合研修 | 受講者一覧・理解度の確認結果 |
| 教育の実施状況を把握する | 教育責任者 | 四半期ごと | 履修名簿の確認 | 点検メモ |
※規程の記載は例で、法令が定める記載事項の一覧ではありません。自店の規程の文言に置き換えてください。
分解の途中で、「適切に」「必要に応じて」「定期的に」といった言葉に印をつけてください。これらは、そのままでは行動になりません。「定期的に」なら毎月か四半期か、運用表の側で具体的な数字に置き換えます。
表が1枚できれば、規程の中身を担当者が1人で抱え込む状態から抜けられます。担当が代わっても、この表を渡せば引き継げます。
ステップ2|対象者ごとに「到達点」を決める
次に、教育を受けた人が「何をできるようになればよいか」を決めます。これを到達点と呼びます。
到達点は、「理解している」ではなく「〜できる」という行動で書きます。行動で書くと、できたかどうかを確かめられるからです。
対象者は、少なくとも3つに分けてください。
| 対象者 | 到達点の例 |
|---|---|
| 新たに募集を始める人 | 重要事項の説明を、所属先の手順どおりの順番で実演できる/顧客の意向を確認する質問を、面談の流れの中で使える |
| 既存の募集人 | 商品改定や事務手続きの変更点を、自分の言葉で説明できる/自店で起きた事務ミスの再発防止策を説明できる |
| 管理者・指導役 | 同行後に、新人の面談を到達点に照らしてフィードバックできる/点検で見つかったずれを運用表に反映できる |
新しく募集を始める人の到達点は、特に丁寧に決めてください。最初の数か月に何を身につけるかで、その後の伸び方が変わりやすいからです。新人の到達点を30日ごとにどう置くかは、保険代理店の新人教育プログラムの作り方|入社90日で何を教えるかで例を挙げて整理しています。
ステップ3|教え方と「理解の確かめ方」をセットで決める
到達点が決まったら、そこに届く教え方を選びます。このとき、理解を確かめる方法を対にして決めてください。確かめる方法がない教育は、実施した記録は残っても、身についたかは分かりません。
| 教え方 | 向いているテーマ | 理解の確かめ方 |
|---|---|---|
| 集合研修 | 法令・社内ルール、顧客情報の取扱い | 研修の最後に確認テストを数問行う |
| eラーニング | 商品知識、事務手続きの変更点 | 受講後の小テスト、朝礼で要点を一言共有してもらう |
| 同行OJT(実地での指導) | 面談の進め方、重要事項の説明 | 同行後に振り返りシートで到達点と照らす |
| ロールプレイ | 意向の確認、説明の順番 | 指導役がチェック項目に沿って評価する |
| 朝礼での事例共有 | 事務ミス・苦情の再発防止 | 共有した人が再発防止策を説明できるか確認する |
同行OJTの振り返りは、指導役が答えを言うより、本人に思い出してもらうほうが定着しやすくなります。問いかけの例を挙げます。
同行後の振り返りで
「今日の面談で、お客様のご意向を確認したのはどの場面でしたか」
「重要事項のうち、お客様が一番気にされていた点はどこでしたか」
「次に同じ場面があったら、どこを変えてみますか」
確かめた結果は、そのまま記録になります。テストの点数でも、振り返りシートでも構いません。「受けた」だけでなく「確かめた」まで残しておくと、規程どおりに教育を回していることを記録で示しやすくなります。
ステップ4|四半期ごとに「規程と実態のずれ」を点検する
運用が始まったら、四半期に1回、規程と実態がずれていないかを点検します。月次の履修確認とは別に、少し引いた目線で見る時間です。
点検では、次の項目を確認します。
- 運用表に書いた時期どおりに、教育が実施されているか
- 対象者の区分に漏れがないか(中途入社・異動・復職者を含む)
- 到達点を確かめた記録が、受講記録とセットで残っているか
- 規程の文言と、実際のやり方が食い違っている箇所はないか
- 点検で見つかったずれに、担当と期限が決まっているか
ずれが見つかったら、直す先は2つに分かれます。運用が規程に追いついていないなら、運用を直します。規程が実態に合わなくなっているなら、ステップ5の見直しに回します。
月次の履修管理や、受けていない人へのフォローの具体的な回し方は、保険代理店の教育責任者は何をする人か|体制整備義務を実務に落とすで解説しています。本記事の運用表と組み合わせると、日常の運転から点検までがつながります。
ステップ5|年1回、規程そのものを見直す
最後に、規程そのものを見直す日を年に1回、あらかじめ決めておきます。期初や、事業年度の締めに合わせると忘れにくくなります。
年1回の定期見直しに加えて、次のようなことが起きたら、その都度見直しを検討します。
- 保険業法や施行規則、監督指針が改正されたとき
- 所属する保険会社から、教育や体制に関する指定の変更があったとき
- 拠点・人数・取扱商品など、組織の形が変わったとき
- 四半期の点検で、規程が実態に合わないずれが見つかったとき
見直した内容は、改訂日と改訂理由を改訂履歴として残してください。いつ、なぜ変えたのかが分かると、点検の場でも説明しやすくなります。
また、一定規模以上の乗合代理店には、法令で追加の体制整備が定められています。たとえば、損害保険の大規模な乗合代理店には、法令等遵守責任者の設置などが求められます(保険業法第294条の4)。監督指針にも、自社が該当するかどうかを事業年度ごとに確認しているか、という着眼点があります。年1回の見直しの際に、あわせて確認しておくと漏れを防げます。
最初の3か月で運用に乗せる進め方
5ステップを一度に仕上げる必要はありません。最初の3か月を1か月ずつに区切り、1か月に1ステップずつ進めると、兼任の担当者でも負担を分散しながら運用に乗せやすくなります。
| 時期 | やること | できあがるもの |
|---|---|---|
| 1か月目 | 規程を1条ずつ読み、運用表をつくる(ステップ1) | 運用表1枚 |
| 2か月目 | 対象者を3つに分け、到達点を書き出す(ステップ2) | 到達点の一覧 |
| 3か月目 | 教え方と理解の確かめ方を決め、記録の様式をそろえる(ステップ3) | 確認テスト・振り返りシート |
| 4か月目以降 | 四半期ごとに点検し、年1回見直す(ステップ4・5) | 点検メモ・改訂履歴 |
最初から完璧な運用表をつくろうとすると、手が止まります。まずは今やっていることを書き込み、空いている欄を次の四半期に埋める、という順番で十分です。
自店で中身を用意する必要があるのは「営業実務」の教育
運用表をつくると、欄の埋まり方に偏りが出やすくなります。法令・商品・事務の教育は、所属する保険会社の研修や教材を使って埋められる部分が多くあります。一方で、お客様との関係のつくり方や面談の進め方といった営業実務の教育は、自店で中身を用意しないと欄が空いたままになりがちです。
営業実務の教育は、成果を出している人のやり方に頼りがちです。しかし、その人が教える時間を取れなければ、知見は本人の中に留まったままになります。ステップ2の到達点とステップ3の確かめ方を使えば、営業実務も他の教育と同じ形で運用表に載せられます。
営業実務の中でも、新人が早い段階で行き詰まりやすいのは、話を聞いてもらえる相手を見つける段階です。運用表の「方法」の欄には、保険営業の見込み客の探し方で紹介しているような、毎日の行動に落とせる内容を教材として置くと、到達点も行動で書きやすくなります。
営業実務の教育でも、所属先の募集ルールに沿っていることが前提です。教材を用意する際は、所属する保険会社のルールと照らし合わせてください。
まとめ|規程は「回して、直して」はじめて体制になる
教育管理規定は、作った時点では設計図です。規程どおりに教育が行われ、その状況を確かめ、ずれを直す。この循環が回ってはじめて、体制として機能します。
- 規程の条文を「運用表」に分解する
- 対象者ごとに「到達点」を行動で決める
- 教え方と「理解の確かめ方」をセットで決める
- 四半期ごとに「規程と実態のずれ」を点検する
- 年1回、規程そのものを見直す
最初の一手としては、手元の規程を開き、「適切に」「定期的に」と書かれた箇所に印をつけるところから始めてください。印をつけた箇所を運用表の1行に置き換えていくことが、規程を動かす最初の一歩になります。
営業実務の欄を自店だけで埋めるのが難しいときは、外部の研修を教材の一つとして運用表に載せる方法もあります。
minalについて
minal(ミナル)は、保険・不動産・金融など、お金を扱う仕事に特化した法人向けの教育研修サービスです。「売り上げに繋がる学び」をコンセプトに、個人事業主・経営者の方や、人事・研修担当の方の社員教育・人材育成を支えています。
お金を扱う仕事は、商品の知識だけでは成り立ちません。どうやってお客様と出会い、関係を築き、提案につなげるか。minalが扱うのは、知識系の研修では学びにくい、この実務の部分です。
現場で顧客獲得に取り組んできた方に登壇いただき、そのやり方を、ほかの方が再現できる形の研修にしています。「あの人だからできる」で終わらせないことが、私たちのテーマです。
あわせて読みたい:保険代理店の教育責任者は何をする人か|体制整備義務を実務に落とす/保険営業の新人が育たない5つの理由|育つ代理店がやっていること
※本記事は営業・育成ノウハウの解説であり、特定の保険商品の推奨・比較や個別の保険勧誘を目的とするものではありません。保険業法など制度の取り扱いは変動する場合があるため、実施の可否や条件は所属先・公式の案内で確認してください。
